お金の出入りの実績を把握「キャッシュフロー計算書」2024/11/18
今回はキャッシュフロー計算書について解説します。
【キャッシュフロー計算書とは】
前回、資金繰り表について説明させていただきました。その中で、企業の資金の流れを見える化するものとして、資金繰り表とともにキャッシュフロー計算書があることをご紹介しました。
資金繰り表は「これからの資金需要を予想するツール」であり、キャッシュフロー計算書は「過去の資金の入り(キャッシュ・イン)と支払い(キャッシュ・アウト)の差を計算し、利用可能な資金(フリー・キャッシュフロー)を算出するもの」と位置付けられます。
キャッシュフロー計算書は、財務状況を表す「貸借対照表」や経営成績を示す「損益計算書」とともに「財務三表」と呼ばれ、財務諸表(財務三表の他に「株主資本等変動計算書」や「付属明細表」などを含む)の中でも特に重要なものと位置づけられています。
【キャッシュフロー計算書と貸借対照表、損益計算書】
貸借対照表は決算日時点の資産や負債、純資産(資本金など)の状況を表すもので、企業の財産と債務の額を示すものになります。
これに対してキャッシュフロー計算書は、対応する会計年度中にどのような要素でお金が入ってきたか、または出て行ったかを示します。貸借対照表が決算日の財産と負債の総額を示すのに対して、キャッシュフロー計算書は、前年と比較したキャッシュ(資金)の増減を表しています。
一方、損益計算書は決算日時点の収益と損益を示します。損益計算書の売上高や仕入高の中には、実際にはキャッシュ・インしていない売掛金やキャッシュ・アウトしていない買掛金も含まれています。
これに対してキャッシュフロー計算書は、実際に入出金した資金の流れを表します。
このため損益計算書で売上高が増加しても、その分だけ貸借対照表上の売掛金が増えれば、キャッシュフロー計算書ではキャッシュ・インは変わらないことになります。同じように仕入高が同じでも、買掛金が減ればキャッシュ・アウトは増加します。
【キャッシュフロー計算書の構造】
キャッシュフロー計算書では、企業の経済活動を以下の3つに分類しています。
1.営業活動によるキャッシュフロー
日々の生産や販売、サービス提供など事業活動での資金の出入り
2.投資活動によるキャッシュフロー
設備投資や資金運用など投資に関連した資金の出入り
3.財務活動によるキャッシュフロー
資金調達や借入金の増減等に関連した資金の出入り
<営業活動によるキャッシュフロー>
営業活動によるキャッシュフローには、現金売上や売掛金の回収、仕入に伴う現金支払いや買掛金の支払い、従業員への現金での給与支払いなどが含まれます。
営業活動によるキャッシュフローは本業でどの程度儲けているかを示すため、一般的にプラスである方が望ましいとされています。逆にマイナスの場合には、赤字が出ているか、利益は出ているものの売掛金の回収が進んでいないことなどが考えられます。
<投資活動によるキャッシュフロー>
投資活動によるキャッシュフローには、土地や建物、機械などの固定資産の購入や売却、有価証券の取引などが含まれます。
設備投資を積極的に行うと出ていくお金が多くなり、マイナスになります。プラスになっている場合、保有する有価証券が値上がりして売却益が出たとか、新たな投資のために遊休地を売却したとかの結果であれば問題はありません。しかし、資金繰りに窮して、本来必要な設備の更新を行っていない結果としてプラスになることもあります。このため、単純にプラスがいいとか、マイナスがいいとは言えません。実際にどのような目的で、どのような投資を行っているか、内容を見て判断する必要があります。
<財務活動によるキャッシュフロー>
財務活動によるキャッシュフローには、借入金やその返却、株式・社債の発行、配当金の支払いなどが含まれます。
金融機関からの新たな借入や社債の発行などによる資金調達を行うと、財務活動によるキャッシュフローはプラスになります。逆に、借入金の返済を行うとマイナスになります。このため財務活動によるキャッシュフローも、一概にプラス・マイナスのどちらがいいということにはなりません。しっかりと増減の要因を把握して、事業全体にどのような影響があるかを確認する必要があります。
<フリーキャッシュフロー>
フリーキャッシュフローは、企業が本業で稼いだ資金から設備投資などで使った分を差し引いたもので、今後の設備投資や借入金の返済、株主への配当などの原資となります。
プラスの場合は健全な経営状態で、マイナスの場合は新たに使える資金が少ない状態といえます。積極的な設備投資により一時的にマイナスになっているのであれば、それほど心配する必要はありませんが、恒常的にマイナスになっている場合やマイナス額が大きすぎる場合には、資金繰りに窮している(ないしは窮する)可能性が高いため、注意が必要となります。
【キャッシュフロー計算書の分析】
貸借対照表や損益計算書の分析同様、キャッシュフロー計算書の分析からは、その企業の財務や経営状況が把握できます。「営業活動」、「投資活動」、「財務活動」の3つのキャッシュフローの動向から、その企業が現在どのような状況になっているかを予測することができます。
1 営業活動によるキャッシュフロー(マイナス)、投資活動によるキャッシュフロー(マイナス)、財務活動によるキャッシュフロー(プラス)
創業期の企業に多く見られるパターンで、財務活動により資金調達して設備投資を積極的に行っているものの、まだ本業の収益が上がっていないというケースが当てはまります。また、業容が悪化しているものの、株主や金融機関に今後の事業拡大に向けた事業計画などを提示して資金調達を行い、新たな投資で事業再生を図っている企業もこのパターンに当てはまります。
2 営業活動によるキャッシュフロー(プラス)、投資活動によるキャッシュフロー(マイナス)、財務活動によるキャッシュフロー(マイナス)
本業で収益を十分に確保できており、その収益を事業拡大に向けた新たな投資に回し、同時に借入金の返済なども進めている状態と考えられます。経営状態のいい企業のパターンといえます。
3 営業活動によるキャッシュフロー(プラス)、投資活動によるキャッシュフロー(マイナス)、財務活動によるキャッシュフロー(プラス)
本業で十分収益を確保しており、更に資金調達を行って、投資を積極的に行っていると考えられます。成長企業に多く見られるパターンです。
4 営業活動によるキャッシュフロー(マイナス)、投資活動によるキャッシュフロー(プラス)、財務活動によるキャッシュフロー(マイナス)
本業では十分な収益を上げられていない中、固定資産の売却などで借入金の返済を行っているという厳しい状態に陥っていると考えられます。
5 営業活動によるキャッシュフロー(マイナス)、投資活動によるキャッシュフロー(マイナス)、財務活動によるキャッシュフロー(プラス)
本業では収益を上げられていないものの、資金調達を行い、新たな投資を実施していると考えられます。現状は本業が低迷しているものの、再建に向けて動き出している可能性があります。
【キャッシュフロー計算書の作成】
投資活動によるキャッシュフローと財務活動によるキャッシュフローは、貸借対照表や損益計算書から導き出すことができます。
<投資活動によるキャッシュフロー>
貸借対照表の固定資産や有価証券の増減、損益計算書の固定資産や有価証券の売却益・売却損などを基に算出します。
<財務活動によるキャッシュフロー>
貸借対照表の短期・長期の借入金の増減や、損益計算書の配当や利払いなどを基に算出します。
一方、営業活動によるキャッシュフローは、現金収入と現金支出から導き出す直接法、投資活動によるキャッシュフローや財務活動によるキャッシュフロー同様、貸借対照表と損益計算書から導き出す間接法の2つの計算方法があります。
<営業活動によるキャッシュフロー(直接法)>
現金収入には現金売上だけでなく売掛金の回収が含まれ、現金支出には現金仕入や買掛金の支払いなどが含まれます。直接法は資金の出入りを把握しやすいため、営業キャッシュフローの全体像を把握することができ、今後のキャッシュフローを見通すことが容易になります。また国際会計基準では直接法が推奨されています。一方で、直接法の計算には貸借対照表や損益計算書にない情報が必要となるため、第三者が作成することはできません。
<営業活動によるキャッシュフロー(間接法)>
間接法では損益計算書の税引前当期純利益を起点にして、損益計算書の減価償却費や配当、利息、固定資産や債券の売却損益などの増減、貸借対照表の棚卸資産、売掛金、買掛金などの資産や負債の増減等を加減することで算出します。
貸借対照表と損益計算書から算出できるため、第三者でも容易に導き出すことができます。また直接法より作成の手間はかからないため、多くの企業でこの方式がとられています。但し、収入や支出を把握しづらいなどのデメリットも指摘されています。
ちなみに直接法でも間接法でも営業活動によるキャッシュフローの最終的な金額は同じになります。
<フリーキャッシュフロー>
フリーキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローと投資活動によるキャッシュフローから算出します。
フリーキャッシュフロー=営業活動によるキャッシュフロー+投資活動によるキャッシュフロー
【まとめ】
いかがだったでしょうか。
一般に中小企業の決算書には貸借対照表と損益計算書が記載されていることは多いのですが、キャッシュフロー計算書を記載する例は少ないかと思います。しかし、貸借対照表と損益計算書とともにキャッシュフロー計算書を作成して、その動向を把握することは、経営状況を多角的に見ていくうえでも非常に有効な手段となります。
フリーキャッシュフローは投資や借入金返済の原資になるものです。このため過去のフリーキャッシュフローの状態を確認しつつ、今後のフリーキャッシュフローの動向を予想することは、投資や借入の判断の際にも重要な指標になります。
比較的手間のかからない間接法でも、計算は面倒なところもありますが、一度ご自身の会社のキャッシュフロー計算書を作成してみてはいかがでしょうか。
それでは、また次回もよろしくお願いいたします。