企業の返済能力を示す「EBITDA有利子負債倍率」 2024/11/06

経済産業省が提供している「ローカルベンチマーク」はご存じでしょうか。これは、企業の定量的な財務分析と、商流・業務フローや経営者、事業、環境、内部管理体制といった定性的な視点から企業を分析し、現状把握や今後の方針策定に役立てるためのツールです。

※詳細は別コラム「ローカルベンチマーク」をご覧ください。

ローカルベンチマークの財務分析で示される指標には、「売上高増加率」「営業利益率」「労働生産性」「EBITDA有利子負債倍率」「営業運転資本回転期間」「自己資本比率」どがあります。

「売上高増加率」はその年の売上高が前年に比べてどの程度増加したかを示すもので、パーセントで表されます。
「営業利益率」は本業での儲けを示す指標で、「営業利益(売上高-売上原価-販売費及び一般管理費)÷売上高」で計算されます。
「自己資本比率」は自己資本(資本金や資本余剰金、利益余剰金など)の総資本(自己資本+他人資本(負債))に対する割合を示します。比率が高いほど自己資金で事業を運営していることを意味し、健全性が高いとされます

これらは多くの方がご存じかと思いますが、「EBITDA有利子負債倍率」や「営業運転資本回転期間」については「それって何?」と思われる方もいるかもしれません。

そこで今回は、「EBITDA有利子負債倍率」についてご説明します。

「EBITDA有利子負債倍率」とは、「EBITDA」に対する「有利子負債」の倍率です。「有利子負債」は、金融機関からの短期・長期の借入金など、利子の支払い義務がある借入金を指します(役員借入金など、利子を支払わないものは含まれません)。計算時には、有利子負債から現金・預金を引いた額を「EBITDA」で割ります。

※詳細は後程・・

【そもそも「EBITDA」って何?】

「EBITDA」という用語が何度も登場していますが、そもそも「何?」と思われている方多いのではないでしょうか。

「EBITDA」は「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization」の略です。読み方は「イービットディーエー」とか「イービッタ」「エビータ」などがありますが、統一されていません。

といっても「もとの英文を示されても何のことかわからん!」とお叱りをいただきそうですので、日本語にします。

EBITDA:支払利息、税金、(有形・無形固定資産の)減価償却前利益

それぞれの英単語の意味は下記のとおりです。

  • 「Earing」:利益
  • 「Before」:~前の
  • 「Interest」:支払利息
  • 「Taxes」:税金
  • 「Depreciation」:有形固定資産の減価償却費
  • 「Amortization」:無形固定資産の減価償却費(例:のれん代)

税支払い前の利益は「税引前当期利益」を指します。このためEBITDAは「税引前当期純利益」に差し引いた「支払利息」を戻し、「減価償却費」足したものになります。

つまり、税金や支払利息、減価償却費などの影響を除いた、その企業の稼ぐ力(利益)を示す指標です。

※ちなみに、「EBITDA」に似た言葉で「EBIT」(イービット)というものがあります。これは「Earnings Before Interest, Taxes」の略で、日本語では「利払前、税引前利益」となります。EBITは減価償却費を加味してないため、主に起業したばかりの企業の場合に用いられることが多い指標です。

「『EBITDA』がどんな要素でできているかは分かったけれど、稼ぐ力(利益)がわかるなら、「営業利益」でいいんじゃないの?何のために面倒くさい計算をするのかいまいちわからない」というご指摘があるかもしれません。

確かに「営業利益」も企業の本業での稼ぐ力を示します。しかし、大きな投資をして減価償却費が高い企業と、そうでない企業とでは、「営業利益」だけでは本来の稼ぐ力を正確に比較することはできません。

また国ごとに法人税や金利水準、減価償却のルールも異なるため、グローバルで企業の稼ぐ力を比較しようとして場合には、「営業利益」よりも「EBITDA」で比較した方がより実態を把握し易くなります。

【「EBITDA」の計算方法】

「えっ!計算方法は『税引前当期純利益+支払利息+減価償却費』じゃないの?」と思われるかもしれませんが、実は「EBITDA」にはいくつかの計算方法があります。

  1.  税引前当期純利益+支払利息+減価償却費
  2.  経常利益+支払利息+減価償却費
  3.  営業利益+減価償却費

厳密にいえば、1.を採用すべきとされていますが、統一的な計算方式が存在していないため、実務では3.の「営業利益+減価償却費」が使われることが多いようです。

ちなみに、冒頭で出た「ローカルベンチマーク」では、3.の「営業利益+減価償却費」が採用されています。

<図2>は損益計算書のそれぞれの項目の関係性です。

  • 売上高から売上原価を差し引いたものが売上総利益です。
  • 売上総利益から販売費及び一般管理費(販管費)を引いたものが営業利益となります。
    ※減価償却費は売上原価と販管費のどちらにも存在します。
  • 営業利益から営業外損益を引いたのもが経常利益になります。
    ※支払利息は営業外損益の中の営業外損失に含まれます。
  • 経常利益から特別損益を引いたものが税引前当期純利益となる構造です。

それぞれの損益計算書の項目を3つのEBITDAの3つの計算式に割り振って表現したのが、<図3>のイメージです。

これを見るとわかる通り、必ずしも3つの計算結果は一緒にはなりません。このため比較対象となるEBITDAがどの方法で計算されているかを確認して、自社のEBITDAを算出する必要があります。

【EBITDA有利子負債倍率とは】

それではいよいよ本題です。先ほどみたように「EBITDA」は企業の稼ぐ力を示す指標のひとつです。「EBITDA有利子負債倍率」は、長短借入金などの有利子負債がEBITDAの何倍になっているかを見る指標で、企業の負債返済能力を測るものです。

この倍率は低いほど財務状況は良好であり、業界平均と比べて高い場合には返済負担が重いと見なされます。

年間の稼ぎ(EBITDA)をもとに利子負債を返済するとしたら何年かかるかを示す指標でもあり、金融機関にとても重要です。一般にはEBITDA有利子負債倍率は低い方が望ましく、7~10倍以内が良いとされます。(ただし、業界や企業の規模により倍率にはばらつきがありますので、同業他社で同規模の平均などと比較する必要があります。)

【EBITDA有利子負債倍率の計算式】

EBITDA有利子負債倍率=(有利子負債-現金預金)÷(EBITDA)

EBITDA有利子負債倍率は、現在の稼ぎで借入金を何年で返済できるかを示します。例えば、有利子負債が5,000千円、EBITDAが400千円、現金預金が無いとすると、利子を考慮に入れないとして、稼ぎを全部返済に回しても、返済には13年かかります。

50,000千円÷4,000千円=12.5年

ところが有利子負債やEBITDAが同じでも、現金預金が4千万円あれば、実施的に返済すべきは1千万円になるため、3年で返済することも可能となります。

(50,000千円-40,000千円)÷4,000千円=2.5年

このため、EBITDA有利子負債倍率の計算の際には、有利子負債から現金預金を引く必要があります。

【まとめ】

いかがだったでしょうか。EBITDA有利子負債倍率が何であるかご理解いただけましたでしょうか。

次回は、「営業運転資本回転期間」について解説させていただきます。

では、またお会いしましょう。

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