企業経営支援の側面から見た出版業界 2023/12/28
前職で出版社をお客様とした印刷に従事していた関係で、多くの出版社や書店の方とお話する機会がありました。現在でも出版社や出版の卸業である取次に在籍している中小企業診断士の集まりである「出版診断士研究会」で、出版社や書店の方々とお話する機会を継続的に持っています。
そこで今回は、経営診断や経営支援を行っている現在の立場から出版業界について考察してみます。
長期に低迷する出版業界
「出版不況」という言葉をお聞きになったことはないでしょうか。過去にあった近所の書店がいつの間にかなくなっていたり、営業していても規模が小さくなったりする場面に出くわしたことは誰しもあると思います。出版科学研究所が公表している出版物の推定販売金額の推移グラフでもわかる通り、出版の市場規模は2019年まで下がり続けてきました。2020年からはコロナの巣ごもり需要で電子出版が増加して減少傾向は一時的に止まりましたが、紙の出版物(雑誌。書籍)は現在まで右肩下がりの状態が継続しています。
書店に関しても同じような傾向が見て取れます。
書店のデータベースを管理している日本出版インフラセンターの書店マスタ管理センターのデータによると、2022年の書店の総店舗数は11,495店舗と10年前に比べ約3割も減少しています。
出版業界は中小企業が大多数
出版社にしても書店にしても、そのほとんどが中小企業です。令和3年の経済センサスによれば、出版社の企業数は2021年で4,068であり、うち中小企業の要件の一つである従業員数300人以下の企業は全体の99.4%にあたる4,045にのぼります。また厳密に書店の企業数ではありませんが、2021年の書籍・文具小売業の企業数は19,524で、うち中小企業の要件の一つである従業員数50人以下の企業は全体の95.6%にあたる18,718となっています。これを見ても明らかな通り、出版関連企業はほとんどが中小企業で構成されています。
※なお業種によって中小企業の定義は異なり、従業員数については、書店を含む小売業は50人以下、卸売業、サービス業は100人以下、出版社が該当する製造業、その他の業種は300人以下となっています。
デジタル化やグローバル化は大企業中心
2023年は出版界でも変革に向けた新たな動きがいくつもありました。例えば大手書店である紀伊國屋書店とカルチャー・コンビニエンス・クラブ及び取次大手の日本出版販売が書店主導の出版流通改革を目指して合弁会社「ブックセラーズ&カンパニー」を設立し、大手出版社の講談社、集英社、小学館と商社の丸紅がICタグを書籍流通に導入することを目指す流通会社「Pubtex」を設立しました。また大手出版社ではメタバースやAIによる創作など新たな取り組みを行ったり、海外に向けたコンテンツの発信だけでなく、海外メディア企業のM&Aによるグローバル化を図ったりする動きも出ています。
しかしこれらの動きは業界の中のごく一部である大企業のもので、大半を占める中小出版社や書店では、大胆な事業転換や新たなチャレンジはできていません。特に書店におけるIT化の遅れは顕著で、小さな書店ではいまだにPOSレジが導入できていないところも多くあります。
出版社、書店が経営改革に取り組むときに必要なもの
業界全体がダウントレンドのなか、本来は経営の刷新に取り組む企業が多く出てくることが望まれますが、なかなか「ヒト」「モノ」「カネ」に余裕がなく、新たな事業に取り組めない、ないしは新たな事業を考えることができないという事業者が多いのが実情のようです。
「ヒト」に関しては一朝一夕に揃えることは難しいですが、「カネ」については当座の資金の当てがあれば、「補助金」を利用して負担を軽減することができる可能性があります。
2023年5月と10月には出版文化振興財団様が書店を含めた出版界に向けて補助金活用のセミナーを開催されました。10月のセミナーには私も講師として参加させていただきましたが、年末のこの段階でもまだまだ補助金に関する認知度や利用の可能性についての周知が行き届いていないのが実情のようです。
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